もともとこのコースの受講をしようと思った動機は私が医療関係者だから当たり前と言えば当たり前なのですが、７年前に学会で島根県を訪れた時に駅で倒れた女性に遭遇したことが大きなきっかけでした。駅で子供と一緒に特急を待つ列に並んでいた時、少し離れたところに人だかりができて騒がしい状態になっていました。一人の女性が倒れていて、その人を囲むように人が集まっていました。駅員さんもその中にはいましたが皆さん只々傍観しているだけで誰も何もできずに見ている状態でした。私もその瞬間そうだったのですが自分ではなくて誰かが何とかしてくれるだろうという考えをしていたと思います。しかし誰も何もしそうもなかったので、今この集団の中で一番適任はおそらく自分だろうと思い倒れた女性のところへ駆けつけました。駅員さんに１１９番通報とAEDを持ってきてもらうよう頼みました。それから女性の呼吸と脈を確認しているとラッキーなことに女性の意識が回復しました。

　駅員さんには感謝され称賛されましたが、私の心の中には反省の意識しかありませんでした。その時にとった私の行動は手順として間違ってはいませんでした。ただそれは自信をもって行った行動ではなく、たまたま自分のとった救命処置の手順が正解だったに過ぎなかったのです。もし女性の心臓と呼吸が止まっていて胸骨圧迫(心マッサージ)と人工呼吸を行わないといけなかったとしたら適切に行えただろうか?救急車が到着するまでの約８分間、自分一人だけで胸骨圧迫をしつづけることはできただろうか?AEDはちゃんと使えただろうか?　できたかもしれないしできなかったかもしれない。私は救急外来の医師ではないので心停止の人に遭遇することは稀です。一次救命処置の知識だけ持っていても行動ができなければ役に立たちません。当然緊急時にはパニックにもなるでしょうし。稀なことに遭遇しパニックになっていても正しい処置ができるためには普段から繰り返し練習をしておかないといけない、それが「BLSの講習を定期的に受けなければ」と思うようになったきっかけでした。

　その出来事直後、やってきた特急に乗っていると車掌さんが私たち親子のところにやってきて感謝の言葉をいただき、うちの子供は車掌さんが服につけていた妖怪「ヌリカベ」のバッチをいただいていました。私はというと何もできなかったのに心苦しいというのが本音でした。